小学校教師クラメロンの日常

関西のみかんが有名な県に住んでいます。小学校教員。3.5.2.6.5異動1.4.特別支援学級.5.1という流れ。今年も生徒指導主任。

筑波大附小公開研(算数・田中博史先生の授業を参観して)

今年度で定年退職をされる田中博史先生の算数の授業を参観してきました。感想を書きます。


主発問(課題)は「赤の1、2倍が青。この逆は『青の0、8倍が赤』と言っていいの?」でした。赤と青というのは2本の棒グラフをイメージされるとわかりやすいです。片方が赤色、もう片方が青色。青色の方がわずかに長いわけです。

 

さて、今回の授業を参観する際に私はいくつかの観点を決めていました。
それらのうち2つについての感想を記します。

 

①授業の中心課題にどうつなげるか。

 これはあっという間でした。というのも、前時の最後に話題になっていたからです(見ていませんが)。そのため今日は昨日の続き・・・となっても子供の思考を阻害しなかったわけです。
 
 このことはなかなか面白いと思いました。私は社会科が専門です。社会科の場合は結構、単元を通した課題があったり、前の時間の学習のときに次の学習内容を子供が見通している場合があったりします。

 

 しかし算数の場合、単元を貫く課題はあまりないのではないでしょうか。むしろ前の時間とつながっていない場合も結構あるように思います。

 

 この日のような展開の良さはなんと言っても導入に時間をかけずにすむことです。たいていの授業の終末で時間がなくなるのは余計な導入をしているからと文科省の田村学視学官が仰っていました。その通りだと思います。算数の導入は結構時間がかかる場合があるので、こういう導入を算数でもやっていくべきだよねと思いました。

 

②本時の追究はどのように行われるか。

 

 漠然とした問いですが・・・。本時の問題をどう解決していくかということです。

 

 まず発言形態。ベースは挙手指名です。つぶやきもありますが、あまり田中先生は拾いませんでした。ときおりペアでの話し合いもありましたが、それほど多くないなという感じを受けます。何でもかでもペアというのは違うよねと最近思います。全体で確認をしたいときや発表の練習をしたいとき、意見をみんなが言いたくて仕方がないとき、などがペアの効果的な使い方でしょうか。

 

 さて、本時の課題を受け、田中先生は「昨日0、2の意味が全然違うということで終わった。まず、0、2の話を考えてみた?」と聞きます。このときに挙手したのは2人。片方に当てます。(今回は今までの田中先生の授業に比べて挙手している子供が少なかったように思う。その分、ときどき全員を立たせたり、手を挙げさせたりして全体を巻き込んでいかれていた。)

 

 するとその子は「(0、2の意味が)違う。」と言いました。続けて「どっちから見たかで変わっただけ。0、8と1はたとえば青が減ったり増えたりはしていないから1、2+1=1+0、8が=になっていない。」と答えます。なかなか鋭いことを言っているようですが、他の子供はぽかーん。

 

 ここから既に早速混乱が始まっていたように思います。田中先生は「どういうこと?」と尋ねます。次の子が「例えば~」とつなげて説明をします。しかし混乱が広がりました。

 

 途中、田中先生も苦笑い。ある子供が「1、2を分数にするとどうなるか?」と全体の子供に問いかけたとこときっかけに、流れは分数の話へ。分数の話の最中、ある子供が話す際に、田中先生は「全員手を挙げて。(説明が)分からなくなったら手をおろす。」と言いました。そうすることで、全員の分からない点はどこかを焦点化していました。この言い方がすごく勉強になりました。また、「全員起立、○○(子供の名前)が言ったことをノートに書くので分かったら座る。」と指示を出すことも。全員が参加するための手だてと言えましょう。 

 

 後半に黒板の図に書き込みをする子供が出て、解決に一気に向かい、授業終了。


 ただ、振り返ったとき、果たして何人が分かったと言えるか。私は心許ないなと感じました。割合の学習の難しさは具体的な操作活動が少ないせいもあり、抽象度が高いところにあると思います。この日の授業も同じです。赤と青の棒を1、2倍、0、8倍ではなく、例えば500円の1、2倍、0、8倍のように具体的数値を使った方が今回の場合はわかりやすいように思いました。赤を別の何か数字で置き換えるということなしに話し合ったからわかりにくかったのではないか、と。

 

 あとはやはり導入でしょうか。「(家で)考えてきた人?」という発問をなされましたが、結構リスキーですね。どんな意見が飛び出すか分かりませんので。導入はある程度そろえた方がすっきりと混乱なく進むと感じました。

 

 1時間の授業を参観しながら学ぶことは山ほどありました。上にもいくつか記した田中先生の言葉掛け、自分から黒板の前にたち説明を始める子供の姿、子供が関心を持っていないと感じたらすぐさま方針を捨てられたところなどなどです。

 

 しかしなんと言っても一番勉強になったのは子供の分からないにとことんまで付き合う、寄り添う」という教師の「在り方です。

 

 私の場合はどうしても正解へたどり着きたい思いが先行します。時間の問題はもちろんありますが、ここぞというときは、徹底的に子供の思考に付き合うことは必要だな、と。それが子供の声を聴くことですし、子供の学びとなるのだろうと思いました。田中先生の素晴らしさは深い教材理解や子供への対応力などだけでなく、むしろ教師としての「在り方」ではないかと考えます。

 

 あと、授業前に取り組んでいた割合カルタはとってもいいなと感じました。文渓堂さんのセミナーで私もやったことがあるのですが、割合の学習に最適ですね。

 

 その後、理科の佐々木先生の授業を参観しました。そちらはまた後日。

 

 他、備忘録的に心に残った言葉をまとめておきます。


・算数は人が最も臆病になる教科。
・他の教科(社会や国語)は現実を相手にしている。だからいろいろな答えもありうる。しかし算数の場合、5+4はどんな人に対しても9。
・形式は本人が便利だと思って使わないと意味がない。
・子供の発言を要約・解釈して教師が話してはならない。スピーカーの役目なら可。

 

 日本で授業がうまい人ランキングがあったとしたら、田中先生は間違いなく5本の指に入られるであろう方です。田中先生が定年退職されてしまうことは極めて残念ではありますが、これからも追い続けていきたいと思います。今回の授業も学びの宝庫でした。ありがとうございました。